溶接工の年収を調べると、数字がばらつきます。「平均424.8万円」と書いている記事もあれば、「平均490万円」「熟練者は900万円台」「年収1000万円も可能」と書いている記事もあります。
この幅は、いい加減な情報が混ざっているからではありません。溶接工という職種の年収が、実際に大きく分かれる構造になっているからです。同じ年数働いていても、保有している資格の区分と、働いている分野によって、年収は数百万円単位で変わります。
この記事では、公表されている統計をもとに平均年収、年代別、分野別、資格別、雇用形態別の目安を整理します。あわせて、未経験1年目のリアルな水準、年収を上げる方法、上がりにくいケースまで扱います。
そのうえで、他の記事があまり明確にしていない2つの論点を加えます。
ひとつは、年収が「保有区分 × 働く分野」の掛け算で決まるという構造です。資格を増やすだけでも、分野を変えるだけでも足りません。この2軸で考えると、自分がどこにいて、どう動けばいいかが見えます。
もうひとつは、「年収1000万円」の実像です。多くの記事がこの数字を挙げますが、その多くは水中溶接という特殊な領域を根拠にしています。これを一般的な溶接工のキャリアの延長として受け取ると、期待と現実がずれます。
溶接工の平均年収
統計と求人情報、2つの数字
公的統計に基づく数値として、賃金構造基本統計調査(令和3年)をもとにした424.8万円という値が示されています。
一方、求人情報をもとにした集計では、溶接の仕事の平均年収490万円、平均時給1,399円という数値も示されています。
月収ベースでは、地域や経験によりますが20万円〜35万円程度が一般的とされ、夜勤や残業がある現場ではさらに上がることもあります。
実態の幅
より重要なのは、平均値ではなく幅です。経験や保有資格によって、400万円台から熟練者の900万円台までという開きがあるとされています。
この幅の広さが、溶接工という職種の特徴です。平均値だけを見ても、自分がどこに位置するかは分かりません。
最新値の確認先
統計値は調査年ごとに更新されます。正確な数値は、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」および職業情報提供サイト「job tag」でご確認ください。
なぜ数字に幅があるのか
年収がばらつく理由は、大きく3つあります。
理由①:技能の水準が金額に直結する職種だから
溶接は、できる作業とできない作業がはっきり分かれる職種です。上向きの溶接ができるか、厚板を扱えるか、ステンレスやアルミを溶接できるか。これらは「なんとなくできる」ということがありません。
技能の差が、担当できる仕事の差になり、そのまま処遇の差になります。事務職のように「経験年数に応じてなんとなく上がる」構造ではありません。
理由②:働く分野によって単価が違うから
同じ溶接作業でも、要求される品質水準が分野によって大きく異なります。
プラントや発電所のように高度な品質管理が求められる現場と、汎用的な金属加工の現場では、そもそも仕事の単価が違います。この差が、そこで働く人の処遇にも反映されます。
理由③:集計の対象が違うから
前述のとおり、公的統計に基づく数値(424.8万円)と求人情報に基づく数値(490万円)では、性質が異なります。前者は在職者の賃金、後者は募集時の提示条件です。
また、「溶接工」として集計するか、関連する製造職を含めるかによっても結果が変わります。
年代別・経験年数別の目安
一般的な傾向
溶接工の年収は、年齢そのものより経験年数と保有区分に連動します。ただし、両者は相関するため、結果として年代別に上昇する傾向が見られます。
20代(見習い〜基本級取得期):最も低い水準。基本的な作業を覚え、基本級の区分を取得していく時期です。
30代(専門級への拡大期):扱える姿勢と材料の区分が増え、単独で仕事を任される時期。年収が明確に上がり始めます。
40代以降(熟練期):難しい条件の作業を任され、後進の指導も担うようになります。ここで分野と区分によって差が大きく開きます。
未経験で30代・40代から入る場合
注意すべき点があります。上記はその年代で働いている人の一般的な傾向であり、未経験で入った人がすぐその水準になるわけではありません。
ただし、追いつくスピードは年齢に依存しません。この職種の評価は年功ではなく技能なので、35歳で始めても、区分を取得していけば同じ土俵に乗ります。
【独自】年収は「保有区分 × 働く分野」で決まる
ここからが、他の記事があまり明確にしていない部分です。
2つの軸がある
溶接工の年収を決めるのは、次の2つの軸の掛け算です。
軸1:保有している評価試験の区分
下向き(F)だけか、立向き・横向き・上向きまで対応できるか。薄板だけか、厚板も扱えるか。炭素鋼だけか、ステンレスやアルミも扱えるか。固定管の全周溶接ができるか。
軸2:働いている分野
プラント・発電所・圧力容器のように高度な品質管理が求められる分野か、造船・建築鉄骨のように構造物を扱う分野か、汎用的な金属加工か。
なぜ掛け算なのか
区分だけを増やしても、その区分が求められない分野にいれば、評価されません。上向きの専門級を持っていても、下向きの定型作業しかない工場では出番がありません。
分野だけ移っても、区分がなければ担当できません。プラントの仕事は単価が高くても、要求される区分を持っていなければ配置されません。
つまり、両方が揃って初めて年収に反映される構造です。
4象限で自分の位置を確認する
| 区分が少ない | 区分が多い | |
|---|---|---|
| 要求水準の高い分野 | 補助作業中心。伸びしろは大きい | 最も高い水準が期待できる |
| 汎用的な分野 | 入り口。ここから始まる | 区分を活かしきれていない可能性 |
左下(区分が少ない × 汎用分野)は、未経験者の出発点です。ここから2つの方向があります。
右下(区分が多い × 汎用分野)にいる場合、分野を移すことで年収が上がる余地があります。せっかくの区分が評価されていない状態です。
左上(区分が少ない × 要求水準の高い分野)にいる場合、区分を増やすことが直接年収につながります。環境は整っているので、あとは技能です。
右上が最も高い水準です。
実務的な意味
自分がどの象限にいるかで、次にやるべきことが変わります。
「年収を上げるにはどうすればいいか」という問いに対して、一律に「資格を取れ」と答えるのは不正確です。すでに区分を持っている人にとっては、転職して分野を変えるほうが効果が大きい場合があります。
分野別の傾向
軸2について、もう少し具体的に見ます。
プラント・発電所
高度な品質管理が求められる現場であり、年収水準は高い傾向にあります。非破壊検査による厳密な品質確認があり、要求される区分も限定的です。
一方、定期修理(定修)の時期に業務が集中する、遠方の現場への出張が発生するといった働き方の特徴があります。
圧力容器・ボイラー関連
ボイラー溶接士という国家資格が必要な領域です。普通ボイラー溶接士(溶接部の厚さ25mm以下や管台・フランジの取り付けなど)と、特別ボイラー溶接士(すべての溶接業務)に分かれます。
有資格者でなければ従事できないため、資格が直接的な価値を持ちます。
造船
厚板の溶接が中心で、姿勢も多様です。技能の要求水準が高く、経験が評価されやすい分野です。造船所の立地により、勤務地が限定される面があります。
建築鉄骨・橋梁
構造物の安全に直結するため、品質管理が厳格です。屋外・高所での作業が発生し、天候の影響を受けます。
金属加工・機械部品
もっとも求人数が多く、未経験の入り口として一般的な分野です。屋内作業が中心で、天候の影響を受けません。
一方、汎用的な作業が中心の職場では、区分を増やしても評価に反映されにくい場合があります。
自動車・自動車部品
量産品の溶接が中心で、スポット溶接など自動化が進んでいる領域です。交替勤務がある職場が多く、深夜割増や交替勤務手当が加算されます。
資格・区分による差
評価試験の区分
年収に最も直接的に効くのが、溶接技能者評価試験の保有区分です。
基本級(下向き)のみ:担当できる作業が限られます。
専門級(立向き・横向き・上向き):現場での対応範囲が広がります。特に上向き(O)は技能の差が出やすく、評価されます。
固定管(P):配管溶接で必要となり、需要のある区分です。
ステンレス・アルミなどの区分:扱える材料が増えると、対応できる分野が広がります。
資格手当
会社によっては、区分ごとに資格手当が設定されています。金額の幅は大きいため、面接で「どの区分にいくらの手当が付きますか」と具体的に確認してください。
区分は維持が必要
注意点として、溶接技能者評価試験の適格性証明書は有効期間が1年で、サーベイランスによる維持が必要です。3年経過時には再評価試験があります。
取得して放置すると失効し、年収への反映も止まります。会社が維持の費用と手続きを負担しているかは、実質的な待遇の一部です。
ボイラー溶接士
前述のとおり、圧力容器を扱う分野では必須となる国家資格です。普通から特別へ進むことで、担当できる範囲が広がります。
雇用形態による差
正社員(メーカー・工事会社の直接雇用)
基本給、資格手当、賞与、退職金の対象になります。安定性が高く、資格取得と維持の費用を会社が負担するケースが多いのが利点です。
派遣・請負
雇用主が派遣会社・請負会社になります。時給ベースで提示されることが多く、短期的な収入は正社員より高く見える場合があります。
一方、賞与や退職金、資格取得支援の面では差が出ることがあります。また、資格の維持を自分で管理する必要が生じる場合があります。
一人親方・個人事業主
経験と区分を積んだ後の選択肢です。日当ベースで現場に入る働き方が一般的で、単価は技能と保有区分に直結します。
ただし、仕事の獲得、機材の調達、保険、確定申告をすべて自分で行うことになります。収入が安定するとは限りません。また、資格の維持費用も自己負担になります。
出張・応援という働き方
溶接には、遠方の現場に一定期間入る「応援」という働き方があります。プラントの定期修理などで発生します。
出張手当や宿泊費が加算されるため、収入は上がりやすくなります。一方、生活拠点を離れる期間が生じます。
【独自】「年収1000万円」の実像
多くの年収記事が「溶接工でも年収1000万円が可能」と書きます。ここを正確に整理します。
根拠の多くは水中溶接
年収1000万円という数字の根拠として挙げられることが多いのが、水中溶接です。
水中溶接は、通常の溶接工の2〜3倍の給与になることもあるとされ、年収1000万円を超える例も紹介されます。
ただし、条件が特殊
水中溶接には、次の条件があります。
潜水士免許が必要。海中で作業を行う場合、労働安全衛生法に基づく国家資格である潜水士の免許が必須です。溶接の技能とは別の、独立した資格です。
危険性が高い。水中という環境そのものが、通常の作業より高いリスクを伴います。給与が高いのは、この危険性に対する対価という側面があります。
案件が限られる。港湾、洋上構造物、ダムなど、対象となる現場は限定的です。誰でも常時従事できる仕事ではありません。
身体的な適性が求められる。潜水作業には健康上の要件があります。
一般化してはいけない理由
つまり、水中溶接は溶接工のキャリアの自然な延長ではなく、別の専門領域です。
「溶接工になれば年収1000万円が狙える」という理解でこの職種を選ぶと、実態とのずれが生じます。大多数の溶接工の年収は、この記事の前半で示した水準の中にあります。
では、水中溶接以外で高い水準に届く道は
あります。ただし、劇的な近道ではなく、積み上げです。
区分を広げる(上向き、固定管、ステンレス・アルミなど)
要求水準の高い分野に移る(プラント、圧力容器、造船など)
ボイラー溶接士などの資格を加える
出張・応援案件に対応する
管理・指導側(溶接管理技術者、溶接作業指導者)へ進む
独立して単価で受ける
これらを重ねた結果として、熟練者で900万円台という水準が示されています。「特殊な一発」ではなく「積み上げ」が実像です。
未経験1年目の年収
低くなるのが通常
未経験入社の初年度は、次の理由で低くなります。
基本給が未経験水準で設定される。
資格手当がゼロ。評価試験の区分をまだ持っていないためです。
賞与が満額支給されない。査定期間に在籍していないためです。
そもそも溶接作業を任されない期間がある。最初は材料の運搬、清掃、仮組みの補助、道具の準備といった周辺作業が中心です。
前職からの減収を見込む
前職がオフィスワークの場合、初年度に一時的な減収が生じるのが一般的です。生活費の3〜6か月分を転職前に確保しておくことをおすすめします。
上がり始めるタイミング
評価試験の基本級を取得し、単独で作業を任されるようになってからです。おおむね実務1〜3年目にあたります。
そこから専門級へ区分を広げるにつれて、段階的に上がっていきます。
年収を上げる5つの方法
方法①:評価試験の区分を増やす
最も基本です。まず基本級、次に専門級(立向き・横向き・上向き)、そして扱える材料の拡大。現場で必要とされている区分から順に取るのが実務的です。
方法②:働く分野を変える
すでに区分を持っているのに評価されていない場合、これが最も効果的です。前述の4象限で、自分が「右下」にいないか確認してください。
方法③:関連資格を加える
ボイラー溶接士(圧力容器分野)、ガス溶接作業主任者、玉掛け・クレーン関連など。分野に応じて価値が変わります。
方法④:管理・指導側へ進む
溶接作業指導者(班長・職長向け)、溶接管理技術者(品質管理側)。手の技能だけでなく、管理の役割で評価される道です。
オフィスワーク出身者にとっては、この方向が有力な場合があります。書類作成、記録管理、関係者との調整といった前職の経験が直接活きるためです。
方法⑤:出張・応援案件に対応する
出張手当や宿泊費が加算されます。生活拠点を離れる期間が生じるため、家庭の事情との兼ね合いで判断してください。
年収が上がりにくいケース
正直に、上がりにくいパターンも挙げます。
区分を増やさない場合。この職種の評価は技能の証明に連動します。年数だけを重ねても、担当できる作業が広がらなければ処遇も変わりにくくなります。
資格の維持を怠って失効した場合。サーベイランスと再評価を放置すると、区分そのものが失われます。
区分が評価されない分野にとどまっている場合。前述の「右下」の状態です。
資格取得を支援しない会社にいる場合。受験費用と練習用材料を自己負担では、取得のペースが落ちます。会社負担かどうかは、長期的に大きな差になります。
下請けの階層が深い位置にいる場合。元請けとの距離が遠いほど、単価の面で構造的な制約を受けやすくなります。
求人票の年収を読み解く4つのポイント
最後に、実際に求人を比較するときの確認事項を挙げます。溶接の求人は、額面の年収だけを並べても比較になりません。
ポイント①:固定残業代(みなし残業)は何時間分か
月給に固定残業代が含まれている場合、何時間分がいくらで設定されているかが明記されています。45時間分で設定されていれば、その水準の残業が前提の職場です。同じ「月給32万円」でも、みなし残業45時間込みと、みなし残業なしでは、時間あたりの価値がまったく違います。
ポイント②:交替勤務・出張手当がいくら含まれているか
溶接の求人では、年収の提示に交替勤務手当、深夜割増、出張手当、応援手当が含まれていることがあります。
これらは働き方と引き換えに得ている金額です。「年収500万円」の内訳が、基本給中心なのか、月10日の夜勤と年間60日の出張で積み上がった数字なのかで、生活はまったく変わります。「その年収は、どのような働き方を前提にした金額ですか」と聞いてください。
ポイント③:資格の取得費用と維持費用は会社負担か
溶接では、ここが実質的な待遇の一部になります。評価試験の受験料、練習用の材料費、そして1年ごとのサーベイランスと3年ごとの再評価にかかる費用。
これらを自己負担する会社と、全額負担して手続きまで管理してくれる会社では、長期的に無視できない差が出ます。「区分の取得費用と、サーベイランス・再評価の費用は会社負担ですか」は必ず確認すべき質問です。
ポイント④:年間休日数
同じ年収でも、年間休日105日と125日では、20日分の差があります。時間あたりで見ると、この差は年収数十万円に相当することもあります。
比較の手順
複数の求人を並べるときは、額面年収の横に「みなし残業時間」「夜勤・出張の頻度」「資格費用の負担」「年間休日数」の4列を作ってください。この4項目を埋めるだけで、額面の順位が入れ替わることは珍しくありません。
よくある質問(FAQ)
溶接工の平均年収はいくらですか?
賃金構造基本統計調査(令和3年)をもとにした数値として424.8万円、求人情報をもとにした集計では平均年収490万円・平均時給1,399円という値が示されています。月収では地域や経験により20万〜35万円程度が一般的とされます。ただし平均値以上に重要なのは幅で、経験と保有資格によって400万円台から熟練者の900万円台まで開きがあります。最新の統計値は厚生労働省の賃金構造基本統計調査および job tag でご確認ください。
なぜ溶接工の年収は幅が大きいのですか?
理由は3つあります。第一に、溶接は「できる作業とできない作業」がはっきり分かれる職種で、技能の差がそのまま担当できる仕事の差になるためです。第二に、働く分野によって仕事の単価が違うためです。プラントや発電所など高度な品質管理が求められる現場と、汎用的な金属加工では水準が異なります。第三に、公的統計と求人情報では集計対象が違うためです。
年収を上げるには何をすればいいですか?
保有区分と働く分野の掛け算で考えてください。区分が少ない場合は、まず評価試験の基本級から専門級(立向き・横向き・上向き)へ、そして扱える材料を広げます。すでに区分を持っているのに評価されていない場合は、分野を変えるほうが効果的です。このほか、ボイラー溶接士などの関連資格、溶接作業指導者や溶接管理技術者といった管理・指導側への進路、出張・応援案件への対応といった方法があります。
溶接工で年収1000万円は可能ですか?
この数字の根拠として挙げられることが多いのは水中溶接です。通常の2〜3倍の給与になることもあるとされますが、海中作業には国家資格である潜水士免許が必須で、危険性が高く、対象となる現場も限定的です。一般的な溶接工のキャリアの延長ではなく、別の専門領域と考えるのが正確です。水中溶接以外では、区分の拡大、要求水準の高い分野への移動、関連資格の追加、管理側への進路といった積み上げの結果として、熟練者で900万円台という水準が示されています。
未経験1年目の年収はどのくらいになりますか?
低くなるのが通常です。基本給が未経験水準で、評価試験の区分がないため資格手当もなく、賞与も査定期間の関係で満額出ません。加えて、入社直後は材料の運搬や仮組みの補助といった周辺作業が中心で、溶接作業そのものを任されるまでに期間があります。前職がオフィスワークの場合は一時的な減収を見込み、生活費の3〜6か月分を確保しておくことをおすすめします。年収が上がり始めるのは、基本級を取得して単独で作業を任されるようになってからです。

