電気工事士への転職を検討するとき、最も具体的な判断材料になるのが年収です。手に職がつく、需要がなくならない。そこまでは分かっても、実際いくらもらえるのかが分からなければ、現職と比較できません。
この記事では、公表されている統計をもとに、平均年収、年代別、資格別、会社規模別、地域別の目安を整理します。あわせて、未経験1年目に実際どうなるか、年収を上げる方法、他業種との比較まで扱います。
そのうえで、他の年収記事があまり踏み込んでいない2つの論点を加えます。
ひとつは、額面年収ではなく「時間あたり」で見るという視点です。電気工事士の年収は、新築施工・鉄道の深夜作業・設備管理の宿直・改修工事のどれに就くかで、同じ金額でも労働時間の中身がまったく変わります。額面だけを並べた比較は、実は意味をなさないことがあります。
もうひとつは、独立で年収の天井を外すための具体的な要件です。多くの記事は「独立すれば年収1000万円も可能」と書きますが、そのために何が必要かは書きません。実際には、電気工事業の登録には主任電気工事士を置く必要があり、その要件は明確に定められています。この要件を知ると、どの会社に何年在籍すべきかという現在の行動が決まります。
電気工事士の平均年収
統計をもとにした数値
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」をもとに算出された数値として、電気工事士の平均年収は547.6万円(令和6年調査に基づくもの)という値が示されています。より新しい調査年度に基づく数値として、628万円という値を掲載している媒体もあります。
一方、求人情報をもとにした集計では、平均年収440万円、平均時給1,497円といった数値も示されています。
なぜ数字が違うのか
同じ「電気工事士の平均年収」でも、媒体によって440万円から628万円まで開きがあります。主な理由は3つです。
①集計の元データが違う。公的統計(賃金構造基本統計調査)に基づく数値と、求人サイトの掲載条件を集計した数値では、性質が異なります。求人情報は募集時の提示額であり、在職者の実際の支給額ではありません。また、未経験募集を多く含むほど平均は下がります。
②調査年が違う。公的統計は毎年更新されるため、参照した年度によって数十万円の差が生じます。
③集計対象の職業分類が違う。「電気工事士」として集計するか、「電気工事従事者」「電気工事技術者」など近接する分類を含めるかで結果が変わります。
どう読むべきか
公的統計に基づく数値(500万円台)は、経験年数の長い有資格者を含む在職者の平均です。
求人情報に基づく数値(400万円台)は、未経験を含む募集時点の提示水準に近くなります。
未経験から入る人にとっては、入り口は後者に近く、経験と資格を積んだ先が前者という理解が現実的です。
最新の正確な数値は、厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」および「賃金構造基本統計調査」(e-Statで公開)でご確認ください。
年代別の年収目安
年齢による変化を見ます。以下は、賃金構造基本統計調査をもとに示されている数値です。
| 年代 | 平均年収の目安 |
|---|---|
| 20代 | 約425万円 |
| 30代前半(30〜34歳) | 約529万円 |
| 40代前半(40〜45歳) | 約577万円 |
読み取れること
年齢とともに明確に上がる構造があります。20代と40代前半では150万円前後の差が生じています。
これは単純な年功ではなく、この期間に資格が積み上がり、担当できる工事の範囲が広がるためと考えられます。20代のうちに第二種、30代で第一種、その後に施工管理や電気主任技術者へ、という進み方が一般的だからです。
未経験で30代・40代から入る場合
注意が必要なのはここです。上の年代別データは、その年代の在職者全体の平均です。10代・20代から働いている経験者が多数を占めます。
35歳で未経験入社した人が、その年に529万円もらえるわけではありません。未経験1年目の年収は、年代別平均より相当低くなります(後述)。
ただし、追いつくスピードは年齢に依存しません。この職種の年収は勤続年数より資格と役割で決まるため、35歳で入っても40歳で第一種を取得すれば、その水準に近づきます。
資格別の年収
年収を最も直接的に動かすのが資格です。
第二種電気工事士
一般用電気工作物(住宅・小規模店舗など)の工事を扱えます。未経験者の入り口となる資格で、取得すると資格手当が付く会社が多く、無資格時からの最初の上昇がここで起きます。
第一種電気工事士
自家用電気工作物(最大電力500kW未満の工場・ビルなど)を扱えます。担当できる現場の規模が広がるため、会社にとっての価値が明確に上がります。資格手当も第二種より手厚く設定されるのが一般的です。
注意点として、第一種は試験に合格しただけでは免状が交付されず、一定の実務経験が必要です。つまり、現場で働きながらでなければ到達できません。
電気主任技術者(第三種など)
工事ではなく保安の監督を行う資格です。ビルメンテナンスや設備管理の分野で価値が高く、選任される立場になると待遇が変わります。難易度は電気工事士より高い部類です。
資格手当の実態
金額は会社によって差が大きく、月額数千円から数万円までの幅があります。重要なのは金額そのものより、毎月・基本給に上乗せで支給され、賞与の算定に含まれる会社であれば効果がさらに大きくなるという点です。
求人票に記載がない場合は、面接で「第二種・第一種それぞれの資格手当はいくらですか」と具体的に確認してください。答えられない会社は、資格取得を評価する文化が薄い可能性があります。
会社規模・地域・雇用形態による差
会社規模
一般に、大手ほど賃金水準は高く、中小になるほど下がる傾向があります。賃金構造基本統計調査でも企業規模別のデータが公表されており、確認できます。
ただし、未経験からの中途採用の門戸は、中小の会社のほうが広いのが実情です。年収だけで選ぶと入り口が見つからない、という事態になりかねません。
地域
賃金には地域差があります。都市部のほうが高い傾向にありますが、生活コストとの兼ね合いで考える必要があります。年収が50万円高くても、家賃がそれ以上に高ければ手元に残る額は減ります。
賃金構造基本統計調査は都道府県別のデータも公表しているため、自分の生活圏の水準を確認できます。
雇用形態
正社員が基本です。加えて、経験を積んだ後の選択肢として一人親方(個人事業主)や独立があります。この場合は年収の考え方そのものが変わります(後述)。
【独自】額面年収ではなく「時間あたり」で見る
ここからが、他の記事があまり扱っていない部分です。
同じ年収500万円でも中身が違う
電気工事士の年収は、どの働き方に就くかによって構成が大きく変わります。
新築施工:工期に沿って動くため、繁忙期には残業が増えます。年収に占める残業代の比率が高くなりやすい働き方です。
鉄道電気工事:列車が走らない深夜に作業する案件が多く、深夜割増賃金が発生します。年収は高めに出やすい一方、生活は夜型になります。
設備管理(ビルメンテナンス):宿直勤務がある職場が多く、宿直手当が加わります。日中の業務は巡回点検が中心で、身体的な負荷は比較的軽くなります。
改修・メンテナンス工事:1日に複数現場を回るため、移動時間が業務の一定割合を占めます。
つまり、同じ年収500万円でも、その内訳が基本給なのか、残業代なのか、深夜手当なのか、宿直手当なのかによって、実際の働き方はまったく違います。
求人票の年収を分解する
比較するときは、次のように分解してください。
年収 =(基本給 + 固定的な手当)× 12 + 変動手当(残業・深夜・宿直)+ 賞与
このうち、変動手当の比率が高い求人ほど、労働時間と引き換えに得ている金額が大きいことになります。
参考として、求人情報をもとにした集計では電気工事士の平均時給として1,497円という数値が示されています。額面年収と併せて、自分が何時間働いてその金額なのかを意識すると、比較の精度が上がります。
確認すべき4項目
面接や求人票で、次を確認してください。
①月給のうち、基本給はいくらか。手当との内訳です。基本給は賞与の算定基礎になるため、二重に効いてきます。
②固定残業代(みなし残業)は何時間分か。45時間分の設定なら、その水準の残業が前提です。
③深夜作業・宿直の頻度。月に何回あるか。
④年間休日数。同じ年収でも、年間休日105日と125日では時間あたりの価値が20日分違います。
なぜこれが重要か
建設業には2024年4月から罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されており、原則月45時間・年360時間、特別条項付きでも年720時間以内という枠組みになっています。
これにより、残業代に依存した年収構造は圧縮される方向にあります。過去の年収情報を参考にする際は、この点を割り引いて考える必要があります。
逆に言えば、基本給と資格手当の比率が高い会社ほど、規制の影響を受けにくく安定しているということです。年収の額面より、この構成比を見るほうが将来の見通しは立てやすくなります。
未経験1年目のリアルな年収
年代別平均には届かない
前述のとおり、統計上の年代別平均は在職者全体の数字です。未経験入社の初年度は、次の理由で低くなります。
基本給が未経験水準で設定される。経験者と同じにはなりません。
資格手当がゼロ。第二種を取得するまで加算されません。
賞与が満額支給されない。査定期間に在籍していないためです。
残業が制限される場合がある。習熟前は安全面から作業範囲が限られることがあります。
前職からの減収を見込む
前職がオフィスワークの場合、初年度に一時的な減収が生じるのが一般的です。
対策としては、生活費の3〜6か月分を転職前に確保しておくことをおすすめします。減収の幅と期間は会社と前職の水準によって大きく異なるため、余裕を持った準備が必要です。
回復のタイミング
典型的な流れは次のとおりです。
1年目:最も低い。資格取得の勉強期間。
2年目:第二種を取得し、資格手当が加算。賞与も満額支給に。
3〜5年目:単独で作業を担当できるようになり、昇給。第一種が視野に入る。
5年目以降:第一種取得、職長や施工管理といった役割の変化で一段上がる。
年収カーブが立ち上がるのは、資格取得のタイミングです。したがって、資格取得を早めることが、そのまま減収期間を短くすることになります。
年収を上げる4つの方法
方法①:資格を取る
最も確実です。会社を変えずに、制度として年収が上がる唯一の手段でもあります。第二種 → 第一種 → 電気主任技術者、と段階を踏みます。
会社が受験費用・工具・練習材料を負担し、受験日を勤務扱いにしてくれるなら、自己負担なしで進められます。この制度の有無は、入社前に確認すべき項目です。
方法②:役割を変える
職長、現場代理人、電気工事施工管理へと進むと、責任とともに待遇が変わります。施工管理は、書類作成とパソコン作業の比重が高く、オフィスワーク出身者の経験が活きる領域です。
方法③:会社を変える
資格と経験が揃った段階で、より条件のよい会社に移るという選択があります。中小で経験と資格を積み、その後に大手や元請けへ移るルートは一般的です。
重要なのは順序です。無資格・未経験の段階で条件のよい会社を狙うより、まず入れる会社で資格を取り、それから移るほうが到達は早くなります。
方法④:独立する
年収の天井を外す唯一の方法ですが、要件があります。次章で詳しく説明します。
【独自】独立で天井を外す──主任電気工事士という要件から逆算する
多くの年収記事は「独立すれば年収1000万円も可能」と書きます。しかし、そのために何が必要かまで書いているものは多くありません。ここを具体化します。
電気工事業には「登録」が必要
電気工事を業として行うには、電気工事業の登録(または届出)が必要です。単に電気工事士の免状を持っているだけでは、事業として工事を請け負うことはできません。
登録には「主任電気工事士」を置く必要がある
そして登録にあたっては、営業所ごとに主任電気工事士を選任しなければなりません。独立する場合、通常は自分自身がこれになります。
主任電気工事士になれる要件
主任電気工事士に選任できるのは、次のいずれかを満たす人です。
①第一種電気工事士の免状を取得している
②第二種電気工事士の免状を取得後、3年以上の実務経験を有し、それを証明できる
つまり、第二種だけで独立を目指す場合、免状取得後に3年以上の実務経験が必要ということになります。
見落とされやすい「証明」の条件
ここが最も重要で、最も知られていない部分です。
②の実務経験は、原則として電気工事業の登録・届出をしている事業者での経験である必要があり、実務経験期間中の常勤性を証明しなければなりません。そして実務経験を証明できるのは、国または都道府県等に電気工事業の登録・届出をしている事業者に限られます。
これが意味するのは、次のことです。
登録・届出をしていない事業者で働いた期間は、独立に必要な実務経験として認められない可能性がある。
非常勤やアルバイト的な働き方では、常勤性の証明が難しくなる可能性がある。
退職後に証明を依頼することになるため、円満に辞めることが実務上重要になる。
だから「今どの会社に入るか」が効いてくる
以上を逆算すると、独立を視野に入れている人が今すべきことが明確になります。
入社前に「御社は電気工事業の登録(または届出)をされていますか」と確認する。これは失礼な質問ではなく、業として工事を行う以上、登録は当然の前提です。
常勤の正社員として在籍する。実務経験の証明で常勤性が問われます。
3年以上在籍する計画を立てる。第二種で独立を目指すなら、この年数が必須です。
あるいは、第一種の取得を目指す。第一種を取得すれば、この3年要件を経由せずに主任電気工事士になれます。ただし第一種自体の免状交付に実務経験が必要なため、いずれにせよ現場での年数は必要になります。
独立後の年収について
独立すれば収入の上限はなくなりますが、同時に仕事の獲得、資材の調達、経理、保険、賠償責任といったすべてを自分で負うことになります。安定した年収が保証されるわけではありません。
また、建設業許可が必要になる規模の工事を請け負う場合は、別途その要件も関わってきます。
「独立すれば稼げる」ではなく、「独立できる状態になるまでに何年、どこで働く必要があるか」を先に把握することが、現実的な判断につながります。
なお、登録の手続き、必要書類、実務経験の証明方法は都道府県や所管の産業保安監督部によって運用が異なる場合があります。必ずお住まいの都道府県または所管窓口でご確認ください。
他業種との比較
全職業平均との関係
賃金構造基本統計調査に基づく電気工事士の平均年収(500万円台とされる数値)は、全職業の平均を上回る水準に位置します。
ただしこれは、経験年数の長い有資格者を含む平均です。未経験の入り口と比較する場合は、この点を差し引いて考える必要があります。
他の現場系職種との比較
施工管理:一般に電気工事士より高めの水準が示されることが多い職種です。ただし、責任の範囲と書類業務の比重が異なります。電気工事士から電気工事施工管理へ進むというキャリアは一般的です。
製造・工場系:業界と職種によって幅が大きく、交替勤務の有無で変わります。
設備管理:電気工事士の資格が活きる分野で、資格を積み上げるほど評価が上がる構造は共通しています。
前職(オフィスワーク)との比較で見るべき点
額面年収だけでなく、次の3点を含めて比較することをおすすめします。
年間休日数。同じ年収でも、休日数が20日違えば時間あたりの価値が変わります。
残業の実態。上限規制の適用後も、会社によって差があります。
資格による将来の上昇余地。オフィスワークでは、資格が直接年収に反映される制度を持つ会社は多くありません。この点は電気工事士側の利点です。
年収が上がりにくいケースと注意点
正直に、上がりにくいパターンも挙げておきます。
資格を取らない場合。この職種の年収は資格と役割で決まります。無資格のまま経験年数だけ重ねても、上昇は限定的です。
資格取得を支援しない会社にいる場合。費用も勉強時間も自己負担では、取得のペースが落ちます。
登録・届出をしていない事業者で働く場合。独立を視野に入れるなら、実務経験の証明で不利になる可能性があります。
残業代への依存度が高い会社の場合。2024年4月からの上限規制により、この部分は圧縮される方向にあります。基本給と資格手当の比率が低い会社は、規制の影響を受けやすくなります。
下請けの階層が深い位置にいる場合。元請けとの距離が遠いほど、単価の面で構造的な制約を受けやすくなります。
よくある質問(FAQ)
電気工事士の平均年収はいくらですか?
賃金構造基本統計調査をもとに算出された数値として547.6万円(令和6年調査に基づくもの)が示されており、より新しい調査年度では628万円という値を掲載する媒体もあります。一方、求人情報をもとにした集計では平均年収440万円、平均時給1,497円といった数値も示されています。公的統計は在職者(経験者・有資格者を含む)の平均、求人情報は募集時の提示水準に近いという違いがあります。最新の数値は厚生労働省の job tag および賃金構造基本統計調査でご確認ください。
未経験1年目はどのくらいの年収になりますか?
年代別平均には届かないのが通常です。基本給が未経験水準で設定され、資格手当がなく、賞与も査定期間の関係で満額出ないためです。前職がオフィスワークの場合、初年度は一時的な減収を見込んでおくのが現実的で、生活費の3〜6か月分を転職前に確保しておくことをおすすめします。年収カーブが立ち上がるのは第二種電気工事士を取得したタイミングなので、資格取得を早めることが減収期間を短くすることに直結します。
年代別の年収はどのくらいですか?
賃金構造基本統計調査をもとにした数値では、20代が約425万円、30代前半が約529万円、40代前半が約577万円とされています。年齢とともに明確に上がる構造がありますが、これは年功ではなく、その期間に資格が積み上がり担当できる工事の範囲が広がるためです。したがって、35歳で未経験入社した人がその年に529万円もらえるわけではありません。ただし追いつくスピードは年齢に依存せず、資格取得のペースで決まります。
独立すれば年収は上がりますか?
上限はなくなりますが、要件があります。電気工事を業として行うには電気工事業の登録(届出)が必要で、営業所ごとに主任電気工事士を選任しなければなりません。これになれるのは、第一種電気工事士の免状取得者、または第二種電気工事士の免状取得後3年以上の実務経験を証明できる人です。しかもその実務経験は、原則として電気工事業の登録・届出をしている事業者での経験である必要があり、常勤性の証明も求められます。「今どの会社に、常勤で、何年在籍するか」が独立の可否を決めるため、入社前に会社の登録状況を確認しておくことをおすすめします。
年収の高い会社を見分けるにはどうすればいいですか?
額面年収だけで比較しないことが重要です。①月給のうち基本給はいくらか(手当との内訳)②固定残業代は何時間分か ③深夜作業・宿直の頻度 ④年間休日数の4点を確認してください。同じ年収500万円でも、基本給が高い会社と残業・深夜手当に依存する会社では意味が違います。2024年4月から建設業にも罰則付きの時間外労働の上限規制が適用され、残業代に依存した年収構造は圧縮される方向にあるため、基本給と資格手当の比率が高い会社ほど安定していると考えられます。

